窓の外で雨が鳴っている
コートの肩が濡れていることに気づかない
喫茶店の明かりがぼんやりと
深夜の街を一つずつ照らしていく
グラスに氷が二つ 音を立てて溶ける
シングルモルトの香りが
部屋の隅に溜まった静寂を揺らす
レコードの針を下ろす
溝に針が落ちる音がして
ジャズが流れ出す
君がいないソファのクッションだけが
まだ君の体温を覚えている
雨のジャズを聴きながら
僕は君のことを考える
窓ガラスに映る自分が
少しだけ他人のように見える
一度だって強がらなかった夜を
覚えているだろうか
雨のジャズを聴きながら
僕はただここにいる
本棚の端に君が置いたままの本
ページを開くと君の指のあとが
うすい色の記Hornのように残っている
コーヒーが冷めていく音さえ
この部屋では美しく響く
時計の針が進むよりも
僕の記憶が進むほうがずっと速い
雨のジャズを聴きながら
僕は君のことを考える
窓ガラスに映る自分が
少しだけ他人のように見える
一度だって強がらなかった夜を
覚えているだろうか
雨のジャズを聴きながら
僕はただここにいる
思い出せない夢の断片が
天井に浮かんで消えていく
君の声が聞こえるような
聞こえないような
雨はいつまでも降り続けるだろう
でも僕はこの雨が好きだ
君がいない世界でも
雨だけは変わらずに降っている
雨のジャズを聴きながら
僕は君のことを考える
窓ガラスに映る自分が
少しだけ他人のように見える
一度だって強がらなかった夜を
覚えているだろうか
雨のジャズを聴きながら
僕はただここにいる
レコードの針が上がっても
メロディーはまだ部屋に漂っている
グラスの中で氷が最後のひとかけらになる
雨はまだ降っている
ジャズはまだ流れている
君はもういない
窓の外で月が
とても静かに輝いている