Lyrics: 神尾晋一郎
Music: 間宮丈裕
Arranger: 神尾晋一郎/ゆよゆっぺ
幼少期の夏、
首のない鶏が走ってきた。
江戸川乱歩「赤い部屋」
猫渕珠子「WITCH GONE TO HELL」
そいつは庭で縄跳びをして遊んでいた僕の手前までくると、
電池が切れたように脚の回転を止めてコテンと倒れ、
付け根だけが残されている首の先端から、
真っ赤な液体をとくとくと溢れ出させた。
衝撃的な光景を前に放心していた僕のもとへ、
鶏舎の出入口からケタケタ笑いながらやって来たのは、
当時小学4年生だった姉である。
その姿は今でも脳裏にこびりついている。
虫も殺さないような顔をして、
にっこりしている頬には、
鮮血がべっとり付着していた。
私にはその心臓が、
大きさに相応したのろさを以って、
ドキンドキンと脈うつ音さえ感じられる様に思えた。
前掛けも赤々とした飛沫に染まり、
粘り気のある赤い糸を垂らした鉈を右手に携え、
左手に握られていたのは切断された鶏の生首だった。
死んでいるから怖いのだ、
と言ったところで姉は理解してくれなかった。
血液が伝う首をかしげさせ、
身を縮ませる僕へ「変な子」と言い放ったのち、
ひくひく痙攣していた鶏の脚を、何食わぬ顔で束ね上げる。
地面にダラダラと血を滴らせながら、
食肉処理を続けるため、
鶏舎へ持ち帰って行ったのだった。
花火が打ち上がると、
集まった人々は一様に夜空を見上げ、
パッと開いて咲き散る色のグラデーションにうっとりと目を細める。
姉はその中で一人しゃがみ込み、
瞬間瞬間に照らし出される色とりどりの光で、
蟻の行列が蝶の死骸から羽をもぎ取っていく様子をじっと眺め、うっとりする。
荷台のフチの上に、緑色をした丸いビーズのようなものがいくつも数珠のように連ねられてあって、
キラキラと光を反射させ、
最初は言われたとおり宝石のようで綺麗だと思ったのだけれど、
よくよく目を凝らして見ると、
並んでいたのはすべてトンボの頭だったのだ。
いつもながらその部屋は、私を、
丁度とほうもなく大きな生物の心臓の中に坐ってでもいる様な気持にした。
電池で動いているのは、
姉なのかもしれない。
姉が死んだのは、
今年、大学四年目を迎えたばかりの春だった。
第一発見者の僕に同情するような声を掛けてくれる親戚が居たけれど、
僕はただただ黙って姉の死に顔を見つめていた。
姉は煙突から灰になって飛び去って逝ってしまった。
僕は今、ホッとしている。