MT1-A-SS(暁と夕の詩 / 立原道造)

Arranger: 神尾晋一郎/ゆよゆっぺ 『暁と夕の詩』立原道造 「Ⅲ小譚詩」「Ⅸさまよひ」 一人はあかりをつけることが出来た そのそばで 本をよむのは別の人だつた しづかな部屋だから 低い声が それが 隅の方にまで よく聞えた 夜だ—— すべての窓に 燈はうばはれ 道が そればかり ほのかに明く かぎりなくつづいてゐる…… それの上を行くのは 僕だ ただひとり ひとりきり 何ものをもとめるとなく 月は とうに沈みゆき あれらの やさしい音楽のやうに 微風もなかつたのに ゆらいでゐた景色らも 夢と一しよに消えた 僕は ただ 眠りのなかに より深い眠りを忘却を追ふ…… 一人はあかりを消すことが出来た そのそばで 眠るのは別の人だつた 糸紡ぎの女が子守の唄をうたつてきかせた それが窓の外にまで よく聞えた いままた すべての愛情が僕に注がれるとしたら それを 僕の掌はささへるに あまりにうすく それの重みに よろめきたふれるにはもう涸ききった! 朝やけよ!早く来い—— 眠りよ!覚めよ…… つめたい灰の霧にとざされ 僕らを凍らす 粗い日が訪れるとき さまよふ夜よ 夢よ ただ悔恨ばかりに! 幾夜も幾夜もおんなじやうに過ぎて行つた…… 風が叫んで 塔の上で 雄鶏が知らせた ——兵士は旗を持て 驢馬は鈴を掻き鳴らせ! それから 朝が来た ほんとうの朝が来た また夜が来た また あたらしい夜が来た その部屋は からつぽに のこされたままだつた (みんなはきいてゐた) (みんなはきいてゐた)